「友達関係に悩んでいます」 無理に“みんなと仲良く”しなくてもいい。でも、違う人と共に生きる力は育てられる
「うちの子、友達関係で悩んでいるみたいなんです」
保護者の方から、こうした相談を受けることがあります。
休み時間に一人でいる、友達の話をしない、LINEで傷ついている。子どもの友人関係に悩みを抱える保護者の方も多いのではないでしょうか。子どもの友達関係に不安を感じ、口を出したくなることもあるでしょう。その子らしい人との関わり方を支えるために大切な視点を、考えてみませんか。
この記事ではこんなことがわかります!
・友達関係が苦手でも人生は閉ざされない理由
・一人でいる子どもの背景をどう受け止めるか
・親が不安を抱えすぎず支える関わり方
休み時間に一人でいる。
学校から帰ってきても友達の話をしない。
グループに入れない。
LINEのやりとりで傷ついている。
仲良くしていた子と急に話さなくなった。
親としては、見ていて胸が苦しくなりますよね。
「このまま人と関われない子になってしまうのではないか」
「社会に出てから困るのではないか」
「コミュニケーションが苦手だと、生きていけないのではないか」
そんな不安が押し寄せてくるのも、自然なことだと思います。
僕も、学校でたくさんの子どもたちを見てきました。友達の輪の中で楽しそうに過ごしている子もいれば、人と関わることにものすごくエネルギーを使う子もいます。教室の中ではあまり目立たないけれど、自分の世界を深く持っている子もいます。 だからまず、保護者の皆さんにお伝えしたいのは、友達関係が苦手だからといって、その子の人生が閉ざされるわけではない、ということです。
「友達が多い=幸せ」とは限らない
大人はつい、子どもに「友達が多いこと」を望みます。もちろん、安心できる友人がいることは素晴らしいことです。困ったときに話せる相手がいる。うれしいことを分かち合える相手がいる。自分とは違う考えに触れられる。友達関係の中で育つ力は、たしかにあります。
でも、「友達が多いこと」そのものがゴールではありません。
友達が多く見える子でも、実は周りに合わせることに疲れていることがあります。
いつも明るく振る舞っている子ほど、本音を言えないこともあります。
反対に、一人でいる時間が多い子が、必ずしも孤独で不幸だとは限りません。
一人で本を読む時間、絵を描く時間、音楽に没頭する時間、ゲームの世界で誰かとつながる時間が、その子にとって大切な回復の時間になっていることもあります。
今の時代は、働き方も生き方も多様になっています。オンラインで仕事をする人もいます。在宅で専門性を生かす人もいます。人前で話すことが得意ではなくても、文章を書く、デザインする、プログラムを組む、データを分析する、ものをつくる、といった形で社会に関わることもできます。
もちろん、コミュニケーション能力が高ければ、仕事や人生の可能性は広がります。
けれど、「コミュニケーションが得意でなければ生きていけない」と決めつける必要はありません。
まず大切なのは、子どもが「今のままの自分でも、ここにいていい」と思えることです。
その安心感がないまま、「もっと友達をつくりなさい」「ちゃんと話しなさい」「みんなと仲良くしなさい」と言われ続けると、子どもはますます人間関係を怖がるようになります。
他人は変えられない。でも、自分の立ち位置は選べる
友達関係の悩みが難しいのは、相手がいることです。
勉強なら、自分の努力で少しずつ変えられる部分があります。生活習慣も、自分の工夫で整えられる部分があります。でも、人間関係はそうはいきません。
どれだけこちらが努力しても、相手の言葉づかいを変えることはできません。相手の機嫌をコントロールすることもできません。相手に自分を好きになってもらうこともできません。
変えられないものを変えようとし続けると、人は苦しくなります。

だから僕は、子どもたちにも保護者の方にも、こう伝えたいのです。
「相手を変えること」より、「自分がどう立つか」を考えよう。
嫌われないように振る舞い続けるのではなく、自分が大切にしたいことを見失わない。誰かの評価に振り回されて、自分のやりたいことをやめない。合わない人がいることを、人生の失敗だと思わない。
これは冷たさではありません。むしろ、自分も相手も別々の人間だと認めることです。人間関係で傷ついた子に、いきなり「もっと積極的に話しかけてみたら」と言う前に、まずは「合わない人がいるのは当たり前だよ」と伝えてあげてほしいのです。
そのうえで、「でも、あなたはあなたのやりたいことを続けていい」と支えてあげる。
自分の軸を持っている子は、たとえ人間関係で揺れても、完全には崩れません。
それでも、協働する力は人生の可能性を広げる
ここまで読むと、「では、人と関わらなくてもいいのですか」と思われるかもしれません。
そうではありません。一人でいられる力は大切です。けれど、他者と協働する力もまた、人生の可能性を大きく広げます。
僕が学校改革の中で大切にしている力の一つに、「関係構築力」があります。これは、単に友達をたくさんつくる力ではありません。気の合う人と楽しく過ごす力だけでもありません。
関係構築力とは、異なる価値観を持つ人たちと、どう目的を共有し、どう協働していくかという力です。
人はそれぞれ違います。
大切にしているものが違う。
心地よい距離感が違う。
言われて傷つく言葉が違う。
頑張れる場面が違う。
沈黙の意味も、笑いの意味も、少しずつ違う。
だから、対立は起きます。価値観が違う人が集まれば、意見がぶつかるのは自然なことです。むしろ、対立がまったく起きない集団の方が不自然かもしれません。

誰かが我慢している、黙っている。
誰かが空気を読んで、自分の考えを引っ込めている。
そんな可能性もあります。
大事なのは、対立をなくすことではありません。対立したときに、そこからどう共通の目的を見つけるかです。
シンパシーではなく、エンパシーを育てる
異なる価値観を持つ人と関わるために必要なのが、エンパシーです。
劇作家の鴻上尚史さんは、シンパシーを「同情する気持ち」、エンパシーを「共感する能力」と説明しています。たとえばシンデレラの物語で言えば、「シンデレラはかわいそうだな」と感じるのがシンパシー。一方で、「継母はなぜシンデレラに冷たくしたのだろう」と考えてみるのがエンパシーです。
この説明は、学校生活を考えるうえでも、とても分かりやすいと思います。
シンパシーは、自分の感情が動くことです。「かわいそう」「大変そう」「つらそう」と感じる。それも大事です。
でも、エンパシーはもう一歩踏み込みます。自分とは違う立場にいる人が、何を感じ、何を考え、なぜそう行動したのかを想像してみる力です。
これは、「相手に賛成する」という意味ではありません。相手の言動を何でも許すという意味でもありません。「自分ならこう感じる」ではなく、「相手はどう感じたのだろう」と考える力です。
「自分は平気」でも、相手は傷つくことがある
学校生活の中で、僕が印象に残っている出来事があります。
ある子が、友達に「バカ」と言いました。言われた子は傷つきました。周りの空気も少し固まりました。そこで話を聞いてみると、言った子はこう言ったのです。
「自分は『バカ』って言われても大丈夫だから、言った」
この言葉には、悪気がないからこその難しさがあります。よく大人は、「自分がされて嫌なことは、相手にしてはいけません」と言います。もちろん、それは大切な教えです。でも、それだけでは足りないのです。
なぜなら、自分がされて平気なことでも、相手にとっては傷つくことがあるからです。

自分は冗談のつもりだった。
笑って流せると思った。
自分の仲間内では普通の言い方だった。
でも、相手にとっては違った。ここに気づくことが、エンパシーです。「自分は大丈夫だから、相手も大丈夫だろう」ではなく、「自分と相手は違う感じ方をするかもしれない」と考える。この力は、友達関係だけでなく、これから社会に出ていくうえでもとても大切です。
仲良しになることがゴールではない
ここで誤解してほしくないのは、エンパシーを育てることは、「みんなと仲良くしましょう」という話ではないということです。僕は、学校が子どもたちに求めるべきことは、「全員と仲良くなること」ではないと思っています。
合わない人はいます。苦手な人もいます。どうしても距離を置いた方がいい関係もあります。
それでいいのです。ただし、相手のことが好きではなくても、同じ目的のために協働することはできます。
文化祭の準備。
探究学習のグループ活動。
学校行事の運営。
地域や社会とつながるプロジェクト。
こうした場面では、気の合う人だけで進められるとは限りません。意見が違う人、ペースが違う人、表現の仕方が違う人と一緒に何かをつくらなければならないことがあります。
そのときに必要なのは、「好きか嫌いか」だけで判断しない力です。
「この人とは合わない。でも、この目的のためには、どこで協力できるだろう」
そう考えられること。
これが知性であり、民主主義の基本だと僕は思っています。民主主義とは、気の合う人だけで集まることではありません。違う意見を持つ人たちが、それでも同じ社会をつくっていくために、対話し、調整し、合意形成していく営みです。
学校は、その練習の場でもあるのです。
多様な生徒が集まる学校だからこそ、対立から学べる
クラークのように、多様な価値観を持った生徒が集まる学校では、当然、いろいろな人間関係が生まれます。
人と関わるのが好きな子もいます。
一人の時間を大切にしたい子もいます。
言葉で伝えるのが得意な子もいます。
絵や音楽や制作で表現する方が得意な子もいます。
すぐに友達ができる子もいれば、時間をかけて少しずつ関係をつくる子もいます。
その多様さの中では、すれ違いも起きます。誤解も起きます。ときには対立も起きます。
でも、それは失敗ではありません。
むしろ、そこから何を学ぶかが大事です。

「なぜ、あの言葉で相手は傷ついたのか」
「なぜ、自分はあの態度に腹が立ったのか」
「お互いに譲れないものは何か」
「共通の目的はどこにあるのか」
「次に同じことが起きたら、どう伝えればいいのか」
こうした問いを持てることが、人間関係の学びです。友達関係の悩みは、子どもにとってつらい経験です。できれば傷つかずに済んでほしい。親なら誰でもそう願います。
でも、人との違いに出会い、うまくいかなさを経験し、それでももう一度言葉を選び直す。その経験は、子どもが社会で生きていくための大切な土台になります。
親ができるのは「解決」よりも「翻訳」
では、家庭ではどんな声をかければよいのでしょうか。
子どもが友達関係で悩んでいると、親はすぐに解決したくなります。

「その子とはもう関わらなければいい」
「先生に言いなさい」
「あなたも悪かったんじゃないの」
「もっと自分から話しかけなさい」
どれも、心配だからこそ出てくる言葉です。ただ、子どもが本当に求めているのは、すぐに正解を出されることではない場合があります。
まずは、子どもの見えている世界を一緒に整理することです。

「何が起きたの?」
「そのとき、あなたはどう感じたの?」
「相手はどう受け取ったと思う?」
「本当はどうしたかった?」
「次に同じことがあったら、どう言えそう?」
これは、子どもの言葉を親が奪わないための問いです。親が裁判官のように「どちらが悪いか」を決めるのではなく、通訳者のように出来事を翻訳していく。
自分の気持ちを言葉にする。相手の立場も想像してみる。変えられることと変えられないことを分ける。そのうえで、自分の次の一歩を決める。この過程そのものが、関係構築力を育てていくのです。
今のままの自分を否定しないところから始める
友達関係に悩んでいる子に、まず必要なのは、「変わらなければならない」という圧力ではありません。「今のままの自分でも大丈夫」という土台です。その土台があるから、人は少しだけ挑戦できます。
今日は挨拶だけしてみよう。
グループに入れなかったけれど、先生に相談してみよう。
苦手な相手と無理に仲良くはしないけれど、係の仕事では必要なことを伝えてみよう。
自分が傷ついた言葉を、落ち着いて伝えてみよう。
こうした小さな挑戦は、安心感がなければできません。人間関係が苦手な子に必要なのは、無理やり輪の中に入れることではありません。自分のペースで、他者との距離を測る経験です。
一人でいる力。
助けを求める力。
断る力。
必要なときに協力する力。
自分と違う相手を想像する力。
これらはすべて、これからの時代を生きるための大切な力です。
「友達関係に悩んでいます」 その悩みは、子どもにとって苦しいものです。
でも同時に、自分と他者の違いを知り、社会の中でどう立つかを学ぶ入口でもあります。親ができるのは、友達を増やすことを急がせることではありません。
「あなたはあなたのままで大丈夫」
「でも、違う人と一緒に生きる力は、少しずつ育てていこう」
■山本崇雄先生プロフィール■
進徳女子高等学校校長(2027年度より環太平洋大学広島高等学校)・日本パブリックリレーションズ学会前理事長ほか。 都立中高一貫教育校を経て、2019年より複数の学校及び団体・企業でも活動する二刀流(副業)教師。
Apple Distinguished Educator、LEGO® SERIOUS PLAY® メソッドと教材活用トレーニング終了認定ファシリテーター。「教えない授業」と呼ばれる自律型学習者を育てる授業を実践。子どもから社会人まで、自律型人材育成をテーマにした講演会、出前授業、執筆活動を精力的に行っている。
検定教科書『NEW CROWN ENGLISH SERIES』『My Way』(三省堂)の編集委員を務めるほか、著書に『「学びのミライ地図」の描き方』(学陽書房)『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』(日経BP社)、『学校に頼らなければ学力は伸びる』(産業能率大学出版部)『「勉強しなさい!」と言わない子育て 学ぶ力の育て方』(時事通信出版)『「教えない」から学びが育つ』(ウェッジ)ほか、監修書に『21マスで基礎が身につく英語ドリルタテ×ヨコ』シリーズ(アルク)がある。
◼︎note https://note.com/takao_y


