「やっぱり全日制に行った方がいいのでしょうか」
大切なのは“学校の形”ではなく、その子が自分の人生を動かしている実感です
通信制高校を選んだものの「やっぱり全日制の方がいい?」と迷う保護者へ。
学校の形にとらわれず、子どもが安心して学び、自分で進路を選び取るために大切な視点から、家庭での対話や成長を支える関わり方をひも解きます。
この記事ではこんなことがわかります!
・「全日制が普通」という不安を捉え直す視点
・通信制高校で育つ、自分で学びを進める力
・子どもの自己決定を支える親子の対話のヒント
「やっぱり全日制に行った方がいいのでしょうか」
通信制高校を選んだ、あるいは選ぼうとしている保護者の方から、こうした問いをいただくことがあります。子ども自身は今の環境に少しずつ慣れてきている。表情も前より落ち着いている。自分のペースで学べるようにもなってきた。
それでも、親としてはふと不安になる。
「このままで大丈夫なのだろうか」
「毎日学校に通っていないと、社会に出てから困るのではないか」
「やっぱり全日制の方が“普通”なのではないか」
「将来、通信制だったことが不利になるのではないか」
その不安は、とても自然なものだと思います。
保護者の皆さん自身が育ってきた時代には、「高校」といえば、朝から夕方まで毎日通う全日制のイメージが強かったはずです。制服を着て、クラスがあって、部活動があって、行事があって、三年間を同じ集団で過ごす。それが多くの人にとっての高校生活でした。
だから、そこから外れた形を選ぶと、どうしても不安になるのです。
でも、僕はここで一度、問いを変えてみたいと思います。
「全日制に行った方がいいのか」ではなく、
「その子にとって、学びが動き出す環境はどこなのか」
この問いの方が、子どもの未来に近いと思うのです。“普通の高校生活”という言葉が、子どもを苦しめることがある僕たちは、無意識のうちに「普通」というものさしを持っています。
- 普通は毎日学校に行く。
- 普通はクラスで友達をつくる。
- 普通は部活動をする。
- 普通は集団生活に慣れる。
- 普通は全日制高校に通う。
もちろん、全日制高校には素晴らしい価値があります。毎日学校に通うことで生活リズムが整う子もいます。クラスや部活動の中で仲間と出会い、行事を通して成長する子もいます。先生や友人との日常的な関わりの中で、自分の可能性を広げていく子もいます。
だから、全日制を否定するつもりはまったくありません。
ただし、それがすべての子どもに合うわけではありません。
毎日同じ時間に同じ場所へ行くことが大きな負担になる子がいます。大人数の教室にいるだけで消耗してしまう子がいます。人間関係の緊張が強く、授業内容以前に、学校という場にいることだけで精一杯になってしまう子もいます。
そういう子に対して、「それでも全日制が普通だから」と言い続けると、子どもはこう感じてしまいます。

「自分は普通ではない」
「みんなができることが、自分にはできない」
「今の自分ではダメなんだ」
これは、とても苦しいことです。学校は、本来、子どもが自分を否定する場所ではありません。自分の可能性を見つけ、自分の歩き方を少しずつつくっていく場所です。その意味で、学校の形は一つでなくていいのです。
通信制高校は“楽な道”ではなく、“自分で学ぶ道”です
通信制高校というと、まだ一部には「楽をしている」「学校に行かなくてもいい」「人と関わらなくても卒業できる」といったイメージを持つ人がいます。
でも、僕はそれは違うと思っています。
通信制高校は、決して楽な道ではありません。むしろ、自分で時間をどう使うか、自分のペースをどう整えるか、学びたいことや必要なことにどう向き合うかが問われる環境です。
全日制では、時間割が決まっています。朝登校すれば、授業が始まり、休み時間があり、次の授業があり、放課後があります。ある意味で、学校が一日の流れをつくってくれます。
一方、通信制高校では、自分で学びのリズムをつくる場面が増えます。もちろん、学校の支援はあります。先生のサポートもあります。仲間と関わる機会もあります。それでも、最終的には「自分はどう学ぶのか」という問いに向き合う必要があります。
これは、これからの社会を生きるうえでとても大切な力です。社会に出れば、すべての人が同じ時間に同じ場所で同じ働き方をするわけではありません。働き方も、学び方も、生き方も多様になっています。自分に合った環境を選び、自分で学び続け、自分の力を社会とつなげていくことが求められます。
そう考えると、通信制高校での学びは、「足りない高校生活」ではありません。自分の人生を自分で設計していくための、もう一つの高校生活です。
全日制か通信制かではなく、「その子が動き出しているか」
保護者の方に見てほしいのは、学校の形だけではありません。その子が少しでも動き出しているかどうかです。
以前にもお話ししましたが、僕は子どもの成長を見るとき、結果だけではなくプロセスに目を向けたいと思っています。

・朝、少し起きられるようになった。
・先生に相談できるようになった。
・レポートに取り組む時間が増えた。
・人と関わる場面を少し選べるようになった。
・自分の興味について話すようになった。
・将来のことを少し考え始めた。
これらは、外から見ると小さな変化かもしれません。でも、その子にとっては大きな一歩です。全日制に通っていても、心が止まってしまっている子はいます。毎日登校していても、ただ我慢しているだけの子もいます。
反対に、通信制高校であっても、自分のペースで学び直し、先生や仲間とつながり、自分の興味を深め、少しずつ社会に向かって歩き始めている子もいます。
だから、大切なのは、「どちらの制度にいるか」だけではありません。
- その環境の中で、その子の学びが動いているか。
- その子の表情が少しずつ戻っているか。
- その子が自分の人生を自分のものとして考え始めているか。
そこを見てほしいのです。
親の不安で、子どもの安心を奪わない
もちろん、保護者の不安は消えないと思います。
「本当にこのままで卒業できるのか」
「進学や就職は大丈夫なのか」
「人間関係の経験が少なくならないか」
「社会性が育つのか」
こうした心配は、どれも大切な視点です。
ただ、その不安をそのまま子どもにぶつけてしまうと、子どもは安心して今の場所で学べなくなります。

「やっぱり全日制の方がよかったんじゃない?」
「このままだと将来困るよ」
「通信制で本当に大丈夫なの?」
こう言われ続けると、子どもは今いる場所を信じられなくなります。そして、自分の選択も信じられなくなります。親の不安は、子どもの未来を思う気持ちから生まれています。だから悪いものではありません。
でも、その不安を子どもに背負わせすぎないことです。親が不安なときこそ、子どもにこう伝えてほしいのです。

「この環境で、どんなことをやってみたい?」
「今の学校で、どんな力を伸ばせそう?」
「困っていることがあれば、一緒に整理しよう」
「全日制か通信制かではなく、あなたがどう学んでいるかを見ているよ」
子どもに必要なのは、「やっぱりあなたの選択は間違っていたかもしれない」というメッセージではありません。「ここからどう学ぶかを、一緒に考えよう」というメッセージです。
クラークでの学びは、多様な生徒の“次の一歩”をつくる場
クラーク記念国際高等学校には、さまざまな背景や思いを持った生徒が集まっています。
中学校時代に学校生活がうまくいかなかった子もいます。集団生活に疲れてしまった子もいます。自分のペースで学びたい子もいます。芸術、スポーツ、探究、資格、進学など、自分の興味や目標を大切にしたい子もいます。
大切なのは、そうした多様な生徒を一つの型にはめることではありません。その子が今どこにいて、何に困っていて、何に興味を持っていて、次にどんな一歩を踏み出せるのか。そこから学びをつくっていくことです。
クラークには、先生が生徒と対話しながら学習や学校生活を支える仕組みがあります。自分のペースで学びながらも、一人きりにしない。必要に応じて相談し、振り返り、次の目標を一緒に考えていく。
通信制高校の価値は、「学校に行かなくていい」ことではありません。自分に合った距離感で学校とつながりながら、自分の学び方を見つけられることです。これは、これまでの学校生活で傷ついた子にとっても、もっと自分らしく学びたい子にとっても、大きな意味を持ちます。
全日制を選び直すことも、通信制で進むことも、どちらも否定しない
ここで、急いで付け加えたいことなのですが、僕は全日制に行くことを否定しているわけではありません。
もし子ども自身が、「やっぱり毎日通う環境で挑戦してみたい」と思うなら、それも大切な自己決定です。全日制の環境がその子に合っていて、そこで力を伸ばせるなら、それは素晴らしいことです。
一方で、通信制高校で学ぶこともまた、立派な選択です。
どちらが上で、どちらが下という話ではありません。
大切なのは、子ども自身がその選択に納得し、自分の学びとして引き受けているかどうかです。
- 親が安心するために全日制を選ばせる。
- 周りの目が気になるから通信制を避ける。
- 「普通」に戻したいから、本人の状態を見ずに進路を決める。
これでは、子どもの学びは動き出しません。進路選択において本当に大切なのは、学校の名前や制度の形ではなく、「その子がそこで自分の人生を前に進められるか」が大切です。
子どもに聞いてほしい問い
では、保護者は子どもとどんな対話をすればよいのでしょうか。僕なら、こういう問いを大切にします。

「今の学校で、安心できていることは何?」
「逆に、困っていることは何?」
「全日制に行くとしたら、何を期待している?」
「通信制で続けるとしたら、どんな力を伸ばしたい?」
「どちらを選んだとしても、自分で頑張れそうなことは何?」
この問いは、全日制か通信制かをすぐに決めるためのものではありません。子ども自身が、自分の状態を言葉にするための問いです。親が先に答えを出してしまうと、子どもは考える機会を失います。でも、問いを通して一緒に整理していくと、子どもは少しずつ自分の考えを持ち始めます。
以前にもお話ししましたが、自己決定は子どもの幸福感にも関わる大切な経験です。進路は、まさにその自己決定を育てる大きな機会です。だからこそ、親が正解を渡すのではなく、子どもが自分で納得して選べるように支えてほしいのです。
“全日制に行ける子”より、“自分の学びを語れる子”へ
これからの社会で必要なのは、「どの学校の形を通ったか」だけではありません。
- 自分は何に興味があるのか。
- どんな環境なら力を発揮しやすいのか。
- どんな失敗から何を学んだのか。
- どんな人とつながり、どんな経験を積んできたのか。
- これから何を学び続けたいのか。
こうしたことを、自分の言葉で語れることが大切になります。
全日制に行ったから安心。
通信制だから不安。
そういう単純な時代ではなくなっています。むしろ、自分に合った学び方を見つけ、自分で時間を使い、自分で目標を立て、必要な支援を受けながら前に進んできた経験は、大きな財産になります。
通信制高校で学ぶ子どもたちは、決して「普通の道から外れた子」ではありません。
自分に合った道を探している子どもたちです。
自分のペースで立て直そうとしている子どもたちです。
新しい学び方の中で、自分の可能性を見つけようとしている子どもたちです。
その姿を、大人がまず信じてあげること。 そこから、子どもは安心して次の一歩を踏み出せます。
学校の形より、その子の未来を見る
「やっぱり全日制に行った方がいいのでしょうか」
この問いに、僕は一つの正解を出すことはできません。全日制が合う子もいます。通信制が合う子もいます。途中で選び直す子もいます。どちらの環境にも、可能性があります。
だからこそ、比べるべきなのは制度の優劣ではありません。
- その子が安心して学べているか。
- その子が少しずつ自分のことを語れるようになっているか。
- その子が自分のペースで目標に向かえているか。
- その子が社会とつながる準備を始められているか。
そこを見てほしいのです。高校生活の価値は、「毎日同じ場所に通ったか」だけで決まるものではありません。どんな環境であっても、自分と向き合い、人とつながり、学び方を身につけ、自分の未来を少しずつつくっていく。
それができるなら、その場所はその子にとって意味のある学校です。親ができることは、「普通」に戻そうとすることではありません。
子どもが選んだ場所で、どんな学びを始めているのかを見ること。
必要な支援を一緒に探すこと。
そして、「あなたの道は、あなたがつくっていける」と伝え続けることです。
僕は、全日制か通信制かという枠組みを超えて、子どもたち一人ひとりが「ここから自分の人生を始められる」と思える学びの場をつくっていきたいと思っています。
■山本崇雄先生プロフィール■
進徳女子高等学校校長(2027年度より環太平洋大学広島高等学校)・日本パブリックリレーションズ学会前理事長ほか。 都立中高一貫教育校を経て、2019年より複数の学校及び団体・企業でも活動する二刀流(副業)教師。
Apple Distinguished Educator、LEGO® SERIOUS PLAY® メソッドと教材活用トレーニング終了認定ファシリテーター。「教えない授業」と呼ばれる自律型学習者を育てる授業を実践。子どもから社会人まで、自律型人材育成をテーマにした講演会、出前授業、執筆活動を精力的に行っている。
検定教科書『NEW CROWN ENGLISH SERIES』『My Way』(三省堂)の編集委員を務めるほか、著書に『「学びのミライ地図」の描き方』(学陽書房)『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』(日経BP社)、『学校に頼らなければ学力は伸びる』(産業能率大学出版部)『「勉強しなさい!」と言わない子育て 学ぶ力の育て方』(時事通信出版)『「教えない」から学びが育つ』(ウェッジ)ほか、監修書に『21マスで基礎が身につく英語ドリルタテ×ヨコ』シリーズ(アルク)がある。
◼︎note https://note.com/takao_y


