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「このままで社会でやっていけるのでしょうか」

その“社会”は、いったいどんな社会ですか?

この記事ではこんなことがわかります!

「このままで社会でやっていける?」と不安な保護者へ。変わりゆく社会を前提に、時間やルールの意味を考え、自分らしい人生の軸を育てるための対話と関わり方のヒントを紹介します。

この記事ではこんなことがわかります!
・「社会で通用する」の意味を捉え直す視点
・自分らしい人生の軸を育てるために大切な力
・将来への不安を対話に変える親の関わり方

「朝、なかなか起きられません。このままで社会人になれるのでしょうか」
「時間にもルーズで、社会に出たら通用しないのではないかと心配です」

僕が担任をしていた時代の三者面談ではよく聞かれた質問です。その心配は、とてもよく分かります。高校を卒業すれば、大学や専門学校へ進む人もいれば、働き始める人もいます。いずれにしても、少しずつ親や先生の手を離れ、自分で自分の生活をつくっていかなければなりません。今の姿を見て、「この子は本当に社会でやっていけるのだろうか」と不安になるのは、自然なことだと思います。

学校でも昔から、こんな言葉をよく耳にしてきました。

  • 「そんなに遅刻していたら、社会で通用しないぞ」
  • 「そんな髪色では、社会で通用しないぞ」
  • 「社会人になったら、そんなことは許されないぞ」

僕自身、教師になったばかりの頃は、こうした言葉にそれほど疑問を持っていませんでした。でも今は、「その社会とは、いったいどんな社会なのだろう」と考えるようになりました。

目次

僕たち大人が思い浮かべる「社会」は、もうずいぶん変わっている

朝9時に全員が会社へ行き、決められた服装で仕事を始める。上司から指示された仕事を、決められた時間の中でこなしていく。かつては「社会人」と聞けば、多くの人がそんな働き方を思い浮かべたのかもしれません。

けれど、今の社会にはさまざまな働き方があります。フレックスタイムで働く人もいれば、自宅やコワーキングスペースを仕事場にする人もいる。会社員をしながら別の仕事を持つ人もいますし、組織に所属せず、自分で仕事をつくっている人もいます。

服装や髪型についても、価値観はかなり変わってきました。以前、僕はスターバックスのドレスコードについてコラムで取り上げたことがあります。

https://pr-for-school.com/column/yamamoto/834

スターバックスではドレスコードが見直され、髪色を含め、働く人の個性を以前より尊重する方向へ変わりました。

ここで大切なのは、「髪は何色でもいい」という表面的な話ではないと思っています。髪の色と、良い仕事ができるかどうかは別の問題です。お客さまとどう向き合うのか、仲間とどう働くのか、自分がその場でどんな価値を生み出すのか。組織として本当に大切にしたいことを明確にすれば、必要以上に細かなルールで人を縛らなくてもよい、という考え方がそこにはあります。

もちろん、どんな仕事でも服装が自由でいいわけではありません。安全や衛生が重視される仕事もありますし、相手との信頼関係を考えて、一定の服装が求められる場面もあります。

だからこそ大事なのは、ルールをただ守ることではなく、

「なぜ、このルールが必要なのか」を考える力なのだと思います。

「遅刻してもいい」という話ではありません

同じことは、時間についても言えます。「今はフレックスの会社もあるのだから、遅刻しても問題ない」という話ではありません。友人と10時に待ち合わせをしているのに、連絡もせず11時に行けば、当然相手は困ります。アルバイトのシフトに遅れれば、誰かがその分を引き受けなければなりません。チームで動く仕事であれば、一人の遅れが全体に影響することもあるでしょう。

ここで学んでほしいのは、「遅刻すると先生に怒られるから時間を守る」ということではありません。自分が時間を守らなかったとき、誰にどんな影響があるのか。何のためにその時間が決められているのか。その目的まで考えて、自分の行動を選ぶことが大切なのです。

一方で、仕事の内容によっては朝9時に会社にいる必要がないこともあります。夜の方が集中できる人もいれば、一人で考えることで力を発揮する人もいる。反対に、人と話しながらアイデアを広げる方が得意な人もいます。

社会が多様になるほど、「全員がこうあるべき」という一つの型では、人を測りきれなくなっていきます。だから僕は、「社会で通用する人間になりなさい」という言葉には、少し注意が必要だと思っています。

大事なのは「どんな人生を送りたいのか」という目的

では、何を軸にして自分の行動を決めればいいのでしょうか。

僕が一番大切だと思うのは、「自分はどんな人生を送りたいのか」という目的です。「どんな仕事に就きたいのか」と聞く前に、

  • 「どんな人でありたいのか」
  • 「どんな人たちと働きたいのか」
  • 「どんな時間の使い方をしたいのか」
  • 「何を大切にして生きたいのか」

を考えてみる。

仕事は、その人生をつくるための一つの手段です。

たとえば、人と直接関わり、喜んでもらえることにやりがいを感じる人なら、接客や教育、医療などの仕事に魅力を感じるかもしれません。一つのことに集中して、時間をかけてものをつくることが好きなら、別の環境の方が向いているでしょう。

「家族との時間を大切にしたい」「場所に縛られずに働きたい」「好きな分野を突き詰めたい」という願いがあってもいい。その生き方に合う企業があるなら、そこを選べばいいのです。

もし、自分の望む働き方に合う会社がなければ、自分で仕事をつくるという選択肢もあります。起業する人もいるでしょうし、いくつかの仕事を組み合わせる人もいるでしょう。

もちろん、誰もが起業する必要はありません。

僕が伝えたいのは、「会社に自分を合わせること」だけが人生ではないということです。自分がどんな人生を送りたいのかを考え、その目的に合う環境を選ぶ。今ある選択肢で足りなければ、自分なりの働き方をつくっていく。僕は、その順番を大切にしたいと思っています。

自由な社会ほど、自分の軸が問われる

ただし、選択肢が増えることは、楽になることと同じではありません。むしろ自由になればなるほど、自分で決めなければならないことは増えていきます。

何時から働くのか。どこで働くのか。誰と仕事をするのか。どの仕事を選ぶのか。自分は何を大切にするのか。

これらを誰かに決めてもらうのであれば、それほど迷わなくて済みます。でも、自分で選べるとなれば、その判断の基準が必要になります。

そこで重要になるのが、「自分はどう生きたいのか」という目的です。目的がなければ、自由はただの迷いになってしまいます。一方で、「自分はこんな人生を送りたい」という軸があれば、その目的に近づくために今は何を選ぶべきかを考えられるようになります。

僕が子どもたちに育てたいと考えている目標設定力、メタ認知力、意思決定力も、突き詰めればここにつながっています。

自分はどこへ向かいたいのか。

そのために今の自分には何が必要なのか。

そして、次にどんな行動を選ぶのか。

こうしたことを考えながら、自分で動いていく力です。

学校は「今の社会に合わせる練習」をする場所ではない

これまで学校には、「社会に出ても困らないようにする」という役割が強く求められてきました。時間を守ることや、決められた服装をすること、先生の指示を聞くこと、提出期限を守ること。もちろん、どれも無意味ではありません。人と一緒に生きていく以上、約束を守ることも、相手に配慮することも必要です。

ただ、それだけを学校教育のゴールにしてしまうと、「決められたことをきちんと守れる人」を育てることが目的になってしまいます。これからの学校で、僕がもっと大切にしたいのは、目的を持って行動する経験です。

たとえば勉強でも、「先生に言われたからやる」のではなく、自分はこの教科から何を学びたいのか、それが自分の将来や生き方とどうつながるのかを考えてみる。

探究学習でも、先生から評価されそうなテーマを選ぶのではなく、「自分は何に引っかかっているのか」「何をもっと知りたいのか」というところから問いをつくっていく。

学校行事でも、ただ決められた役割をこなすだけではなく、「何のためにこの行事をするのか」「その目的のために自分はどう関わるのか」を考えることができます。

高校生の段階で、「自分はこんな人生を送る」と明確に決められる人ばかりではありません。むしろ、分からないことの方が多いでしょう。それでいいのだと思います。

学校は、人生の目的を決め切る場所ではなく、目的を考えながら行動する訓練をする場所と捉えてもいい。やってみたら思っていたものと違った。自分には別のやり方が合っていた。興味があると思っていたけれど、実際に経験すると違うことが分かった。そうした経験も含めて、自分のことを少しずつ知っていく。学校での学びには、そんな役割もあるはずです。

「このままで大丈夫?」を、少し違う問いに変えてみる

だから、お子さんの今の姿を見て「このままで社会でやっていけるのだろうか」と不安になったときには、少し問いを変えてみてほしいと思います。

「どんな仕事ならできそう?」と聞く前に、「どんな人生を送りたい?」と聞いてみる。

すぐに答えられなくても構いません。

「どんなときが楽しい?」
「逆に、どんな環境だと苦しい?」
「時間を忘れてできることはある?」
「どんな大人を格好いいと思う?」

そんな対話を重ねながら、本人が少しずつ自分の価値観に気づいていけばいいのです。

親が先に「良い人生」の答えを用意する必要はありません。むしろ大人の価値観だけで、「安定した会社に入ること」「こういう働き方をすること」を正解にしてしまうと、子ども自身が自分の人生について考える機会を失ってしまいます。

まずは仮でもいいから、「自分はこう生きたいのかもしれない」と考えてみる。そして行動し、違うと思ったら考え直す。僕は、そういう積み重ねがキャリア教育だと思っています。

社会に通用する人より、自分の人生をつくれる人へ

社会はこれからも変わっていきます。

今ある仕事が10年後も同じ形で残っているとは限りませんし、働く時間や場所、組織のあり方もさらに変化していくでしょう。そんな時代に、「こうしておけば社会で通用する」という答えを、大人が子どもに渡し切ることはできません。

だからこそ、自分なりの軸が必要になります。自分はどんな人生を送りたいのか。そのために何を学び、どんな人とつながり、どんな環境を選ぶのか。会社に勤めることが目的に合っているなら、その道を選べばいい。合う会社がなければ、違う働き方を探してもいいし、自分で仕事をつくることだってできます。

学校で学んでいるのは、今の社会に上手に合わせるための方法だけではありません。自分なりの目的を持ち、その目的に向かって考え、選び、行動する力を育てている。これからの社会だって自分で変えることができる。そう考えると、「このままで社会でやっていけるのでしょうか」という問いの見え方も、少し変わってくるのではないでしょうか。

今の社会にうまくはまれるかどうかだけを見るのではなく、自分がどんな人生を送りたいのかを考え、そのために必要な選択をしていける人になっているか。僕は、そこを大人が一緒に見ていきたいと思っています。

子どもたちがこれから入っていく社会は、僕たち大人が生きてきた社会と同じではありません。そして、その先の社会をつくっていくのは、今の子どもたち自身なのです。

■山本崇雄先生プロフィール■

進徳女子高等学校校長(2027年度より環太平洋大学広島高等学校)・日本パブリックリレーションズ学会前理事長ほか。 都立中高一貫教育校を経て、2019年より複数の学校及び団体・企業でも活動する二刀流(副業)教師。

Apple Distinguished Educator、LEGO® SERIOUS PLAY® メソッドと教材活用トレーニング終了認定ファシリテーター。「教えない授業」と呼ばれる自律型学習者を育てる授業を実践。子どもから社会人まで、自律型人材育成をテーマにした講演会、出前授業、執筆活動を精力的に行っている。

検定教科書『NEW CROWN ENGLISH SERIES』『My Way』(三省堂)の編集委員を務めるほか、著書に『「学びのミライ地図」の描き方』(学陽書房)『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』(日経BP社)、『学校に頼らなければ学力は伸びる』(産業能率大学出版部)『「勉強しなさい!」と言わない子育て 学ぶ力の育て方』(時事通信出版)『「教えない」から学びが育つ』(ウェッジ)ほか、監修書に『21マスで基礎が身につく英語ドリルタテ×ヨコ』シリーズ(アルク)がある。  

◼︎Official Website

◼︎note https://note.com/takao_y

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