「人とのコミュニケーションが苦手です。このままで将来、困りませんか?」――“直すこと”より先に、親ができること
保護者の方から、こうした相談を受けることがあります。わが子が人とうまく関われていないように見えると、心配になりますよね。
人とのコミュニケーションが苦手な子どもの将来が心配な保護者へ。コミュニケーションが苦手な子どもへの対応方法について悩む方も多いでしょう。
苦手を無理に直すのではなく、子どもの特性や気持ちを受け止め、自分に合った伝え方や生き方を選ぶ力を育てる関わり方を考えます。
この記事ではこんなことがわかります!
・コミュニケーションが苦手でも大丈夫と考えられる理由
・苦手を否定せず、子どもの現在地を受け止める関わり方
・答えを与えず、問いと選択肢で自己決定を支える方法
「うちの子は、人とのコミュニケーションが苦手なんです」
「自分から友だちの輪に入れません」
「このままで、進学や就職は大丈夫でしょうか」
保護者の方から、こうした相談を受けることがあります。わが子が人とうまく関われていないように見えると、心配になりますよね。学校ではグループ活動があり、社会に出れば職場の人とのやり取りもあります。「コミュニケーション能力が大切だ」という言葉も、いたるところで耳にします。
だから、つい言ってしまうのです。
「もっと自分から話しかけないと」
「そんなに人と話せなくて、将来大丈夫なの?」
「社会に出たら、苦手では済まされないよ」
教員としても、親としてもその気持ちはよく分かります。 子どもが将来困らないように、今のうちに何とかしてあげたい。人付き合いで傷つかないように、コミュニケーションの力を身につけさせたい。そう思うのは、親として自然なことです。でも、その言葉を伝える前に、一度立ち止まって考えてみてほしいのです。本当に、コミュニケーションが苦手なままでは、生きていけないのでしょうか。
まず伝えたいのは、「苦手でも大丈夫」ということ
僕はまず、コミュニケーションが苦手でも、十分に生きていくことはできると伝えたいと思います。働き方や人とのつながり方は、一つではありません。対面で話すことに強い負担を感じるなら、オンラインを中心に働く方法もあります。大勢での共同作業が苦手でも、文章を書く、デザインをする、プログラムを組む、動画を編集する、ものを制作するといった、一人で集中して取り組みやすい仕事もあります。
もちろん、どんな仕事でも、人との関わりが完全になくなるわけではありません。けれど、求められるコミュニケーションの形は一つではないのです。
大勢の前で話すのは苦手でも、一対一なら相手の話を丁寧に聞ける人がいます。会話の中ですぐに答えるのは苦手でも、文章なら自分の考えを正確に伝えられる人もいます。雑談は得意ではなくても、好きなことについてなら驚くほど豊かに語れる人もいます。
「コミュニケーションが苦手」という言葉の中には、実はいろいろな違いが隠れています。それを一まとめにして、「自分は人と関われない」「社会では通用しない」と決めつける必要はありません。
「直さなければ」と急ぐ前に、現在地を受け入れる
子どもが何かを苦手にしていると、大人はすぐに改善方法を考えます。

「毎日、自分からあいさつしよう」
「もっと友だちと話した方がいい」
「人前で発表する練習をしよう」
こうした助言が役立つこともあります。しかし、本人がまだ「変わりたい」と思っていない段階で、大人が改善を急ぐと、子どもは別のメッセージを受け取ってしまうことがあります。

「今の自分ではダメなんだ」
「話せない自分には価値がないんだ」
「親は、今の自分を認めてくれていないんだ」
親が伝えたいのは、「あなたの将来が心配だ」という愛情です。けれど、子どもに届くのは、「あなたはこのままではいけない」という否定かもしれません。だからこそ、最初に必要なのは、改善ではありません。まずは、今の自分をそのまま受け入れることです。

「人が多い場所では、話しにくくなるんだね」
「知らない人と話すと、すごく疲れるんだね」
「話すより、文章で伝える方が楽なのかな」
できないことを、できないまま一度受け止める。これは、諦めることではありません。現在地を知ることです。地図でも、自分が今どこにいるかが分からなければ、目的地までの道を選べません。子どもの成長も同じです。
まずは自分の得意と苦手を否定せずに見つめられること。それが、自分に合った次の一歩を選ぶ土台になります。
苦手だからこそ、見える世界がある
僕は、苦手なことは、将来その人の強みに変わる可能性があると考えています。コミュニケーションに苦手意識がある人は、人とのやり取りで困っている人の気持ちを、深く想像することができます。
- 電話をかけなくても利用できるサービスがあればいい
- 直接会わずに相談できる仕組みがあれば助かる
- 言葉でうまく説明できない人も、選択肢を選ぶだけで意思を伝えられたらいい
こうした発想は、自分自身がコミュニケーションが苦手で困った経験を持つ人だからこそ生まれるものです。コミュニケーションが得意な人も、話すことに困っている人の気持ちを想像することはできます。しかし、言葉が出てこない焦りや、人と会った後の強い疲れ、返事を考えているうちに会話が先へ進んでしまう苦しさを、実感として理解するのは簡単ではありません。
- 苦手だからこそ、見えるものがあります
- 苦手だからこそ、寄り添える相手がいます
- 苦手だからこそ、つくれるサービスや仕組みがあります
自分がつまずいた場所に、次に来る誰かのための橋を架けることができるのです。
苦手は単なる欠点ではありません。同じ困りごとを抱える人の世界を理解するための、大切な視点にもなるのです。
変わるか、変わらないかを決めるのは本人
もちろん、本人が「もう少し人と話せるようになりたい」と願うこともあるでしょう。

友だちをつくりたい。
自分の意見を伝えたい。
困ったときに助けを求められるようになりたい。
将来やってみたい仕事のために、必要な力を身につけたい。
そう思ったときには、小さなことから練習すればいいのです。
一方で、「無理に社交的になろうとせず、自分に合った環境を選びたい」という生き方もあります。大切なのは、どちらが正しいかではありません。
- 話せるようになりたいのか
- 得意な方法を生かして暮らしたいのか
- どんな場面だけは、少し話せるようになりたいのか
それを決めるのは、子ども自身です。僕が「教えない授業」で大切にしてきたのも、自分の目標を自分で決め、自分に合った方法を選び、試行錯誤する経験です。教育で大切なのは、大人がいつまでも支え続けることではなく、子どもが自分で決められるように、少しずつ手を放していくことです。
手を放すことは、放任ではありません。子どもの代わりに答えを出すのではなく、子どもが自分でよりよい選択をできるよう、選択肢と安心できる環境を用意することです。「教えない授業」も、何も教えずに放っておく実践ではなく、子どもが自ら学び方を選び取ることを大切にしています。
そこで育つのが、自分の目標を考える「目標設定力」、自分の状態や特性を捉える「メタ認知力」、そして自分に合った道を選ぶ「意思決定力」です。
家庭では、答えではなく「問い」を渡す
では、保護者はどのような言葉をかければよいのでしょうか。たとえば、こんなふうに尋ねてみてください。

「どんなときに、人と話すのが難しいと感じる?」
「一対一と大勢の場では、どちらが話しやすい?」
「話すことと、文章で伝えることでは、どちらが楽?」
「今より少しだけ、できるようになりたいことはある?」
「困ったとき、どんな助けがあると安心できそう?」
ここで大切なのは、親がすぐに解決策を言わないことです。子どもが「分からない」と答えることもあるでしょう。でも、それでいいのです。「今はまだ分からない」という現在地が分かったからです。
答えが出ないときには、選択肢を渡すこともできます。

話す練習をしてみる方法もあるし、文章で伝える力を伸ばすこともできる。自分に合う環境を探すこともできるよ。どれなら少し試してみたい?
親が道を決めるのではなく、いくつかの道を一緒に眺める。その経験が、子どもの自己決定する力を育てます。
クラークには、安心して悩みを話せる時間がある
とはいえ、すべての悩みを家庭の中だけで解決しようとする必要はありません。思春期になると、親だからこそ話しにくいこともあります。家族には言えなくても、少し距離のある大人になら話せることがあります。
クラークには、生徒一人ひとりと定期的に一対一で話す「コーチング」の時間があります。
コーチングで扱われるのは、テストの点数や学習計画だけではありません。

「最近、しんどくない?」
「将来について、気になっていることはある?」
そんな対話を重ねながら、生徒自身もまだ整理できていなかった不安や、本当はどうしたいのかという思いを、少しずつ言葉にしていきます。また、クラークでは担任教員全員が「学習心理支援カウンセラー」の資格を持っています。勉強の悩みだけでなく、心の不調や将来への不安についても、専門的な視点を持った教員に受け止めてもらえることは、生徒にとっても保護者にとっても大きな安心につながります。クラークが大切にしているのは、答えを押しつけることではなく、だからといって一人にもしないという関わりです。
「少しずつ話せる環境」の大切さ
僕は、コミュニケーションが苦手な子どもにとって、この「少しずつ話せる環境」がとても大切だと思います。
大勢の前で上手に話せなくてもいい。
最初から、自分の気持ちを正確に説明できなくてもいい。

「分からない」
「うまく言えない」
「今は話したくない」
そんな言葉から始まってもいいのです。
定期的に対話する時間があることで、子どもは家族以外の大人にも、自分の悩みを話す経験を積むことができます。一人の先生にうまく話せなかったとしても、学校の中に相談できる大人がいる。話したくなったときに受け止めてもらえる場所がある。そう分かるだけでも、心の負担は変わります。
家庭は、子どもが安心して帰ってこられる場所であること。
学校には、悩みを言葉にするための時間と、専門的な知識を持って支えてくれる大人がいること。
親だけ、先生だけで抱えるのではなく、それぞれが異なる役割を担いながら、子どもの自己決定を支えていけばよいのです。
コミュニケーションは「よく話すこと」だけではない
コミュニケーションというと、明るく話せること、友だちが多いこと、グループの中で積極的に発言できることを思い浮かべる人が多いかもしれません。けれど、本当にそれだけでしょうか。
- 相手の話を最後まで聞くこと
- 言葉に詰まっている人を急かさずに待つこと
- 分からないときに「分かりません」と伝えること
- 困ったときに「助けてください」と言うこと
- 話す代わりに、文章や作品で思いを表現すること
これらもすべて、大切なコミュニケーションです。
お子さんの探究学習や日々の活動を見るときにも、発表が上手だったか、グループでたくさん話せたかだけで評価しないでほしいと思います。
- 以前より少し、自分の考えを表現できた
- 困ったときに、誰かを頼ることができた
- 自分に合った伝え方を見つけられた
- 相手の話を聞き、自分なりの方法で応答できた
そこにも確かな成長があります。
親が渡したいのは、不安ではなく選択肢
コミュニケーションが得意であれば、確かに選べる道が広がることもあるでしょう。しかし、それは「苦手なままでは幸せになれない」という意味ではありません。

苦手を少しずつ乗り越える道もあります。
苦手を補う道具や仕組みを使う道もあります。
自分の得意が生きる環境を選ぶ道もあります。
そして、自分と同じように困っている人のために、新しい仕事やサービスをつくる道もあります。親の役割は、子どもを一つの理想像に近づけることではありません。
「あなたには、いろいろな生き方がある」と、選択肢を見せることです。
そして最後は、子ども自身に選んでもらうことです。
「人とのコミュニケーションが苦手でも、あなたは大丈夫」
「できるようになりたいと思ったら、一緒に方法を考えよう」
「自分に合う生き方を選んでもいい」
「家族以外にも、相談できる大人はいるよ」 そんな言葉を受け取った子どもは、苦手を隠すのではなく、苦手と付き合う方法を考え始めます。できないことがある自分を否定するのではなく、今の自分を出発点に、これからの未来を眺められるようになります。
苦手は、人生の行き止まりではありません。
自分に合った道を探し始めるための、入り口なのです。
■山本崇雄先生プロフィール■
進徳女子高等学校校長(2027年度より環太平洋大学広島高等学校)・日本パブリックリレーションズ学会前理事長ほか。 都立中高一貫教育校を経て、2019年より複数の学校及び団体・企業でも活動する二刀流(副業)教師。
Apple Distinguished Educator、LEGO® SERIOUS PLAY® メソッドと教材活用トレーニング終了認定ファシリテーター。「教えない授業」と呼ばれる自律型学習者を育てる授業を実践。子どもから社会人まで、自律型人材育成をテーマにした講演会、出前授業、執筆活動を精力的に行っている。
検定教科書『NEW CROWN ENGLISH SERIES』『My Way』(三省堂)の編集委員を務めるほか、著書に『「学びのミライ地図」の描き方』(学陽書房)『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』(日経BP社)、『学校に頼らなければ学力は伸びる』(産業能率大学出版部)『「勉強しなさい!」と言わない子育て 学ぶ力の育て方』(時事通信出版)『「教えない」から学びが育つ』(ウェッジ)ほか、監修書に『21マスで基礎が身につく英語ドリルタテ×ヨコ』シリーズ(アルク)がある。
◼︎note https://note.com/takao_y


