「子どもが、何がしたいのか分からないみたいで…」前編 “夢がない子”ではなく、まだ出会う途中の子として見る
こんな経験 ありませんか?
「何がしたいか分からない」と話す子どもに、親はどう関わればよいのでしょうか。
焦らず見守りながら、小さな興味を一緒に見つけていくヒントを紹介します。
・「夢がない」と決めつけない進路の見方
・小さな興味を見つけるための問いかけ
・白紙の未来を焦らず支える関わり方
「うちの子、何がしたいのか分からないみたいなんです」
進路の話になると、急に黙ってしまう。
「将来どうしたいの?」と聞いても、「別に」「まだ分からない」。
好きなことがないわけではなさそうだけれど、それが進学や仕事につながるほどのものには見えない。そんな姿を見ると、親としては落ち着かないですよね。
周りの子がオープンキャンパスに行き始めた。
友達が「この大学に行きたい」と言っているらしい。
学校からも進路希望調査が来る。
そのたびに、「うちはこのままで大丈夫なのだろうか」と胸の奥がざわつく。
そして、つい聞いてしまう。
「何かやりたいことはないの?」
「将来のこと、ちゃんと考えてる?」
「そろそろ決めないと困るよ」
もちろん、責めたいわけではありません。
親としては、子どもの未来が心配なのです。早めに目標が見つかれば安心できる。進む方向が見えれば、今やるべきことも決まる。思うのは自然なことです。
でも、子どもからすると、その問いが重たく感じられることがあります。
- 「何がしたいの?」と聞かれても、本当に分からない。
- 分からない自分が悪いような気がする。
- 何か答えなければいけない空気だけがある。
だからまず、こう考えてみてほしいのです。
この子は「夢がない子」なのではなく、まだ自分に合うものと出会っている途中なのかもしれない、と。
「目標がない自分はダメなの?」という不安
ある時、三者面談を終えた生徒が、ぽつりとこんなことを言いました。

「大人はみんな、どうしたい? 何がしたい? って聞いてくるんです。でも、自分は本当にしたいことがないんです。自分がダメなんでしょうか」
この言葉を聞いたとき、僕はしばらく返事ができませんでした。
大人は、子どものためを思って聞いています。

「将来どうしたいの?」
「何になりたいの?」
「どんな進路を考えているの?」
でも、まだ答えを持っていない子にとって、その問いは励ましではなく、テストの問題のように響くことがあります。しかも、正解が分からないテストです。
分からないと言えば、心配される。
適当に答えれば、本気じゃないと言われる。
少し夢のあることを言えば、「それで食べていけるの?」と返される。
そうなると、子どもはだんだん省エネになります。
「別に」「分からない」「何でもいい」
この言葉だけを見ると、何も考えていないように見えるかもしれません。けれど実際には、「どう答えたら否定されないか」が分からなくて、言葉を引っ込めていることもあります。
だから、まず届けたいのは正論ではありません。

「今は、まだ見つかっていないだけかもしれないよ」
「そう感じるのは自然なことだよ」
「むしろ、自分にちゃんと向き合っている証拠かもしれないね」
こうした言葉で、子どもの足元を少し温めることです。
人生100年時代と言われます。高校生は、その長い旅のまだ入口に立ったばかりです。最初の十数年で、好きなことも、やりたいことも、進む道もすべて見つかっている方が、むしろ珍しいのかもしれません。
「今の自分でも大丈夫」
そう思える土台があって初めて、子どもは未来の話を自分の言葉で始められるのです。
「何になりたい?」より、「何に少し心が動いた?」
進路の話になると、大人はつい職業名を求めてしまいます。
看護師。公務員。エンジニア。デザイナー。会社員。
もちろん、それがはっきりしている子は、その道を応援すればいいと思います。
ただ、まだ何も見えていない子に、いきなり職業名を聞くのは、少し飛びすぎていることがあります。
たとえるなら、まだ外に出たばかりの子に、「どの山の頂上を目指すの?」と聞くようなものです。本人はまだ、空気の匂いや道の感触を確かめているところかもしれません。
そんなときは、問いを小さくしてみる。
- 「最近、ちょっと面白いと思ったことある?」
- 「時間を忘れてやってしまうことって何?」
- 「これは嫌じゃないな、と思えることはある?」
- 「逆に、これはどうも苦手だなと思うことは?」
やりたいことは、最初から立派な夢の形をして現れるとは限りません。
- 「好き」
- 「気になる」
- 「嫌じゃない」
- 「ちょっと面白い」
- 「なんとなく引っかかる」
そのくらいの小さな反応から始まることが多いのです。
たとえば、ある生徒が「家庭科の調理実習が楽しかった」と言ったとします。そこで、すぐに「じゃあ料理人になるの?」と職業に結びつけなくていい。

「調理実習の何が楽しかったの?」
「みんなで作るのがよかった?」
「手を動かす感じが好きだった?」
「誰かに食べてもらうのがうれしかった?」
こうして少し掘っていくと、その子の中にある“好きの成分”が見えてきます。
人と協力することが好きなのか。
ものをつくることが好きなのか。
段取りを考えるのが得意なのか。
誰かに喜んでもらうことにやりがいを感じるのか。
進路の種は、案外こういう日常の中に落ちています。
まずは「言葉になる前の感覚」を大事にする
子どもは、自分の興味を最初から上手に説明できるわけではありません。
「なんとなく好き」
「理由は分からないけど気になる」
「うまく言えないけど、これは嫌じゃない」
そういう曖昧な感覚を、大人はつい整理したくなります。
「つまり、こういうこと?」
「じゃあ、将来はこっち系?」
「それならこの進路がいいんじゃない?」
でも、あまり早くまとめすぎると、子ども自身が考える余白がなくなってしまいます。
僕が大事にしたいのは、子どもが自分の感覚を自分の言葉にしていく時間です。
たとえば、子どもが「動画編集がちょっと面白い」と言ったとします。そこで親がすぐに「じゃあ映像系の専門学校を調べよう」と進めてしまうと、子どもは少し引いてしまうかもしれません。まだ本人の中では、そこまで大きな話ではないからです。
まずは、
- 「どんな動画を作るのが面白いの?」
- 「編集しているとき、どの作業が好き?」
- 「人に見てもらうのが楽しい? それとも作っている時間そのものが楽しい?」
くらいでいいのです。
そしてその会話の中で、子どもは少しずつ自分を知っていきます。
自分は表現が好きなのか。
人を笑わせたいのか。
細かい作業が好きなのか。
誰かに伝えることが好きなのか。
こうしたメタ認知が育ってくると、進路は急に現実味を帯びてきます。
未来は、まだ白紙でもいい
親はどうしても、白紙の進路用紙を見ると不安になります。でも、白紙には白紙の良さがあります。まだ何も描かれていないということは、これからいろいろ描けるということでもあります。
もちろん、いつまでも何もしなくていいという意味ではありません。
けれど、焦って大人が代わりに書き込んでしまうと、その進路は子どものものではなくなってしまいます。大切なのは、白紙を責めることではなく、最初の一本の線を一緒に探すことです。
- 「今すぐ決めなくていいけど、少し気になるものを一つだけ挙げるなら何?」
- 「この一か月で、ちょっと印象に残ったことはある?」
- 「もし一日だけ何でも体験できるなら、何をしてみたい?」
そんな小さな問いからでいいのです。
未来は、最初からきれいな地図でなくていい。
むしろ、最初は落書きのようなものかもしれません。
でも、その落書きを消さずに眺めているうちに、少しずつ道のようなものが見えてくることがあります。
次回は
この続きとして、目標の見つけ方には
「縦に深めるタイプ」と「横に広げるタイプ」があること
そしてクラークでの学びが「まだ分からない」をどう支えてくれるのかを考えていきます。
■山本崇雄先生プロフィール■
進徳女子高等学校校長(2027年度より環太平洋大学広島高等学校)・日本パブリックリレーションズ学会前理事長ほか。 都立中高一貫教育校を経て、2019年より複数の学校及び団体・企業でも活動する二刀流(副業)教師。
Apple Distinguished Educator、LEGO® SERIOUS PLAY® メソッドと教材活用トレーニング終了認定ファシリテーター。「教えない授業」と呼ばれる自律型学習者を育てる授業を実践。子どもから社会人まで、自律型人材育成をテーマにした講演会、出前授業、執筆活動を精力的に行っている。
検定教科書『NEW CROWN ENGLISH SERIES』『My Way』(三省堂)の編集委員を務めるほか、著書に『「学びのミライ地図」の描き方』(学陽書房)『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』(日経BP社)、『学校に頼らなければ学力は伸びる』(産業能率大学出版部)『「勉強しなさい!」と言わない子育て 学ぶ力の育て方』(時事通信出版)『「教えない」から学びが育つ』(ウェッジ)ほか、監修書に『21マスで基礎が身につく英語ドリルタテ×ヨコ』シリーズ(アルク)がある。
◼︎note https://note.com/takao_y


