「うちの子、全然勉強しないんです」―机に向かわせる前に、親が本当に見てほしい学びの現在地
「うちの子、全然勉強しないんです」
保護者の方とお話ししていると、本当によく聞く言葉です。
中学生・高校生の子どもが勉強しない姿に不安を感じるとき、家庭ではどう支えればよいのでしょうか。つまずきへの気づきや声かけ、関わり方のヒントを紹介します。
・勉強時間より大切な「学びの現在地」🧭
・付箋一枚から始める家庭学習の工夫📝
・管理ではなく伴走する親の声かけのコツ📢
学校から帰ってきてもスマホばかり見ている。
テスト前なのに焦っている様子がない。
部屋に入ったと思ったら、勉強しているのか動画を見ているのか分からない。
そんな姿を見ると、「このままで大丈夫なのだろうか」と不安になるのは、親として当然だと思います。
僕にも子育てを振り返ると思い当たる節はあります。
頭では「子どもを信じよう」と思っていても、目の前でだらだらしている姿を見ると、つい「勉強しなさい」と言いたくなる。
いや、実際に言ってしまったこともあります。
だからまず、お伝えしたいのは、「心配になる自分」を責めなくていいということです。
親が不安になるのは、子どものことを大切に思っているからです。
ただ、その不安のままに「勉強しなさい」と言い続けることが、本当に子どもの学ぶ力につながるのか。
そこは一度、立ち止まって考えてみたいのです。
そもそも、家でも学校の勉強をしなければならないのか
少し極端なことを言います。
そもそも、学校で勉強しているのに、家でも学校の勉強をしなければならないのでしょうか。
もちろん、入試に向けた準備や、苦手な単元の復習、自分の目標に向かう学習は必要です。
家庭で学ぶこと自体を否定しているわけではありません。
でも、本来、学校は学ぶ場所です。
授業を受け、友だちと対話し、先生に質問し、分からないことに向き合う。
やるべきことを学校でできる限り済ませる。それが理想です。
家に学校の勉強を持ち帰ることは、大人で言えば、仕事を家に持ち帰る「残業」に少し似ています。
毎日、家でも仕事をし続けなければならない状態が続いたら、大人だって疲れてしまいますよね。
子どもにとっても、家は休む場所であり、好きなことに触れる場所であり、家族と過ごす場所でもあります。
だから僕は、「毎日必ず一時間、机に向かわせましょう」とは言いません。
大切なのは、時間の長さではありません。
「何のために、家で学ぶのか」です。
ここで、もう一つ大事なことがあります。
子どもを見る軸を一つにしない
子どもを見るときに、「勉強ができるかどうか」だけを軸にしないでほしいのです。
学校の勉強のように、テストの点数や偏差値で数値化しやすい力があります。
これは認知能力と呼ばれるものです。
読む、書く、計算する、知識を理解する。 これらはもちろん大切です。
でも、それと同じくらい大切なのが、非認知能力です。
☑ 人と協同する力。
☑ 粘り強く努力する力。
☑ 失敗しても立て直す力。
☑ 自分の気持ちを調整する力。
☑ 自分で決める力。
さらに、絵を描く、音楽をつくる、身体で表現する、物語を生み出すといった芸術的な力も、その子の大切な力です。
点数には表れにくいけれど、その子がその子らしく生きていくための土台になる力です。
ですから、お子さんを見るときには、どうか一つの軸だけで判断しないでください。
そう決めつける前に、その子がどんなことに集中しているのか、どんな場面で人とつながっているのか、どんな表現に心が動いているのかを見てあげてほしいのです。
そのうえで今回は、あえて学校の勉強、つまり認知的な力に焦点を絞って考えてみます。
✍家庭学習の目的は「できないことを見つける」こと
学校の勉強で成長するために必要なことは、とてもシンプルです。
「できないことを、できるようにすること」
これに尽きます。
ところが家庭では、つい表面的な行動に目が向きます。
机に向かったか。
何分勉強したか。
問題集を何ページ進めたか。
スマホを見ていなかったか。
もちろん、それらも一つの目安にはなります。
でも、本当に大切なのはそこではありません。
一時間机に向かっていても、すでに分かっている問題をただなぞっているだけなら、学びはあまり深まりません。逆に、たった十分でも、「今日の授業で分からなかった一問」に向き合えたなら、それは価値のある学びです。
家庭学習の目的は、学校でできなかったこと、やり残したこと、分からないままになっていることを、自分で見つけて、少しでも前に進めることです。
つまり、家で大切なのは「長く勉強すること」ではなく、「自分の学びの現在地を知ること」なのです。
付箋一枚から始める、学びの見える化
そこでおすすめしたいのが、付箋を使ったとても簡単な方法です。
学校で授業を受けていて、「ここが分からなかった」「この問題は途中で止まった」「この英単語は覚えきれなかった」と思ったところに、付箋を貼る。
まずはそれだけでいいのです。
付箋は、子どもにとっての小さなサインになります。
「ここが今日の自分の課題だ」
「ここはまだ終わっていない」
「ここはもう一度見たい」
家に帰ったら、その付箋の中から一つだけ選んで、十分やってみる。
全部やろうとしなくて構いません。最初から完璧を目指すと続きません。
今日は英単語を三つだけ覚える。
数学の解けなかった一問だけやる。
古文の本文を一回だけ音読する。
授業で書いたノートの空欄を一つ埋める。
それで十分です。大切なのは、「自分で選ぶ」こと。
自分で課題を見つける。
自分で優先順位を決める。
自分で時間を決める。
自分でやってみる。
そして、うまくいかなかったら、また考える。
この小さな積み重ねが、目標設定力、メタ認知力、意思決定力につながっていきます。
親ができるのは、管理ではなく伴走です
では、親は何をすればよいのでしょうか。
これでは、自分で学ぶ力は育ちません。

僕が保護者の方におすすめしたいのは、命令ではなく、問いかけです。
「今日、学校で分からなかったところってあった?」
「付箋を貼るとしたら、どこに貼りたい?」
「全部やらなくていいとしたら、今日一つだけやるなら何にする?」
「何分ならできそう?」
「終わったら、どこまで分かったかだけ教えてくれる?」
この言葉がけのポイントは、
💡親が答えを決めないことです。
💡子どもに選択肢を渡すことです。
「勉強しなさい」ではなく、「今日の自分に必要な一歩は何だろうね」と一緒に考える。
それだけで、家庭の空気はずいぶん変わります。
僕が実践してきた「教えない授業」も、決して放任ではありません。
大人がすべてを管理するのではなく、子ども自身が目標に向かって手段を選び、
自分のペースで学ぶ経験を重ねていくことを大切にしています。
家庭でも同じです。放っておくのではありません。横に立つのです。
「できない」を責めず、学びの入口にする
もう一つ、大事なことがあります。
子どもが「分からない」「できない」と言ったとき、そこを責めないことです。
「授業をちゃんと聞いていないからでしょ」
「前にも同じことを言ったよね」
「だから普段からやりなさいって言ってるの」

こう言いたくなる気持ちは、本当によく分かります。
でも、子どもが「できない」と言えることは、実はとても大切な一歩です。
自分のできないことに気づく力。
これがメタ認知です。
メタ認知がある子は、自分の現在地を知ることができます。
現在地が分かれば、次の一歩を決められます。
逆に、自分が何を分かっていないのか分からない状態では、どれだけ机に向かっても学びは空回りしてしまいます。
だから、子どもが「ここが分からない」と言ったら、まずはこう返してみてください。
できないことを責めるのではなく、次の行動につなげていく。
これが、家庭でできる大きな支援です。
クラークの学びと、家庭での小さな自己決定
クラークのような通信制高校の価値は、単に「自宅で学ぶ時間がある」ということではありません。
自分の時間をどう使うか。
自分に合った学び方をどう選ぶか。
自分の興味や目標と学習をどうつなげるか。
そこを考えられるところに、大きな意味があります。
探究、協同、表現、基礎学力の積み上げ。
それらは別々のものではありません。
すべて、その子が自分の人生を自分で歩むためにつながっています。
だから家庭では、「家で長時間勉強しているか」だけを見なくていいのです。
✅今日、自分のやり残しに気づけたか。
✅今日、一つだけでも自分で選べたか。
✅今日、分からないことを分からないと言えたか。
✅今日、十分でも自分の課題に向き合えたか。
そこを見てあげてほしいのです。
手をかけるより、少しずつ手放す
子育ては、手をかけ続けることではありません。
少しずつ手放していくことです。
もちろん、急に手を放せば子どもは転ぶかもしれません。
だから、最初は横に立つ。必要なときには支える。
でも、ずっと親がハンドルを握り続けない。
「今日は何をやるの?」
「何時からやるの?」
「終わったの?」
「ちゃんとやったの?」

この言葉を少し減らして、
「今日は何を選ぶ?」
「どこが気になっている?」
「どう進めたらできそう?」
「やってみて、何が分かった?」

に変えてみる。
子どもは、すぐには変わらないかもしれません。
付箋を貼り忘れる日もあるでしょう。
十分のつもりが五分で終わる日もあるでしょう。
決めたのにやらない日もあると思います。
でも、それも経験です。
「うちの子、全然勉強しないんです」
その不安の奥には、「この子に幸せに生きてほしい」という親の願いがあります。
その願いは、子どもを追い立てるためではなく、
子どもが自分の足で歩き出す力を育てるために使いたい。
今日、机に一時間向かわなかったとしても、付箋一枚、自分で選んだ十分があれば、そこから学びは始まります。
僕は、家庭で育てたい学びの力とは、そういう小さな自己決定の積み重ねなのだと思っています。
■山本崇雄先生プロフィール■
進徳女子高等学校校長(2027年度より環太平洋大学広島高等学校)・日本パブリックリレーションズ学会前理事長ほか。 都立中高一貫教育校を経て、2019年より複数の学校及び団体・企業でも活動する二刀流(副業)教師。
Apple Distinguished Educator、LEGO® SERIOUS PLAY® メソッドと教材活用トレーニング終了認定ファシリテーター。「教えない授業」と呼ばれる自律型学習者を育てる授業を実践。子どもから社会人まで、自律型人材育成をテーマにした講演会、出前授業、執筆活動を精力的に行っている。
検定教科書『NEW CROWN ENGLISH SERIES』『My Way』(三省堂)の編集委員を務めるほか、著書に『「学びのミライ地図」の描き方』(学陽書房)『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』(日経BP社)、『学校に頼らなければ学力は伸びる』(産業能率大学出版部)『「勉強しなさい!」と言わない子育て 学ぶ力の育て方』(時事通信出版)『「教えない」から学びが育つ』(ウェッジ)ほか、監修書に『21マスで基礎が身につく英語ドリルタテ×ヨコ』シリーズ(アルク)がある。
◼︎note https://note.com/takao_y


