早見和真先生作品『かなしきデブねこちゃん』を題材に地域探究
クラーク高校では、2026年9月より、探究学習の一環として「ひょうご ネクストローカル探究〜Z世代とマルが描く地域創生プラン〜」をスタートします。本プロジェクトでは、小説家・早見和真先生の作品『かなしきデブねこちゃん』を題材に、生徒たちが3〜4人の「模擬編集部」を結成。地域の人や企業、文化などを実際にリサーチ・取材し、そこで見つけた魅力や課題をもとに「マルの冒険オリジナルストーリー」や地域創生プランを企画します。
10月から地域での取材や中間発表に取り組み、11月下旬の成果発表に向けて、自分たちの目で地域を捉え、発信していきます。
その導入セッションとして8月31日、兵庫地区のクラーク生450名を対象に、早見先生を招いた講演会を実施しました。
「ものをつくって生きるということ」をテーマに早見先生が講演
高校時代に出会った一冊が、人生を変えた
プロジェクトのスタートとなった講演会では、早見先生が自身のこれまでの経験を振り返りながら、「ものをつくって生きるということ」について語りました。
少年時代は野球に打ち込み、プロ野球選手を夢見ていた早見先生。しかし中学生の頃、自分より圧倒的な才能を持つ選手との出会いから、その夢を諦めることに。高校でも野球を続ける中、グラウンドを訪れる新聞記者を見て、「自分ならもっと選手たちのことを伝えられるかもしれない」と感じたことが、文章で生きていくことを意識するきっかけになったといいます。
また、高校2年生のときに出会った一冊の本を寮で一晩かけて読み、「次の日に見える景色が少しだけ変わっていた気がした」「生まれて初めて、文章ってすごいなと思った」と振り返りました。そして生徒たちに、「高校時代って、意外と人生を決める瞬間が目の前に転がっている。転がっているチャンスを見逃さないでほしい」と語りかけました。


世界を旅し、経験を文章に変える
大学時代には本を読むことに没頭する一方、リュックサック一つで世界各地を旅し、約3年半にわたってさまざまな国を巡りました。20歳頃からは旅先での経験を雑誌の記事にして原稿料を得ながら、次の国へ向かう生活を送ったといいます。
その後、就職や進路で挫折し、立ち止まった時期を経て、編集者との出会いをきっかけに小説の執筆を開始。自身の高校野球での経験をもとにした作品で小説家としてデビューしました。挫折や旅、人との出会いなど、一見遠回りにも思える経験の一つひとつが、早見先生の「ものをつくる力」へとつながっていきました。


『かなしきデブねこちゃん』に込めた「広い世界を見に行こう」
講演後半では、探究学習の題材となる『かなしきデブねこちゃん』が生まれた背景についても紹介されました。愛媛県松山市で暮らす中で早見先生が感じたのは、外から来た自分だからこそ気づける、地域の魅力があるということでした。
「子どもたちに地域の魅力を伝えたい」「本を読むことそのものを面白いと思ってもらいたい」。そんな思いから、『かなしきデブねこちゃん』のプロジェクトは始まりました。作品を通して伝えたかったメッセージについて、早見先生は、「広い世界を見に行こう」という言葉を挙げました。
自分の生まれ育った町の良さを知るためには、一度、外の世界を見てみる。違う場所や価値観に触れることで、初めて自分の地域の魅力に気づくことがある。その思いが、主人公・マルの旅に込められています。




高校生と一緒に、新しい物語をつくる
今回のプロジェクトについて、早見先生は、教育現場との本格的なコラボレーションは初めてだと話し、「今まで想像もつかなかったような絡み方ができたらいいなと思っています」と期待を寄せました。
また、生徒たちには「今、こんな自分になりたいと思うものがあるなら、勝手に諦めないでほしい」と呼びかける一方、まだやりたいことが見つかっていなくても、「必要以上にビビらなくていい。人間、生きていれば必ずどこかで何かと出会う」とメッセージを送りました。
今回の講演をスタートに、生徒たちは自分の目で地域を見て、人に会い、話を聞き、そこで見つけた魅力や課題を物語や企画へと形にしていきます。



生徒の声「講演会を聞いて」
豊田さん(連携校 芦屋キャンパス 1年)
『イノセント・デイズ』や『ザ・ロイヤルファミリー』など、早見先生の作品を知り、直接お話を聞けることが楽しみでした。早見先生のこれまでの経験が自分に重なる部分もあり、心に残りました。この経験を将来の夢に向かって、一歩踏み出すきっかけにしたいです。
是枝さん(連携校 芦屋キャンパス 2年)
今回の探究学習では、誰かの人生を変えるような壮大なものでなくても、「なんだろう?」と人の目を引き、興味を持ってもらえるようなストーリーをつくってみたいです。探究学習を通して、自分の好きなことややりたいことを見つけ、それを将来の夢につなげていきたいです。


早見先生インタビュー「物語をつくるということ」
- これから物語をつくっていく高校生に伝えたいことはありますか?
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「高校生だから、こんなもんでしょ」と、自分たちで限界を決めないでほしいと思っています。
「来年には本当に商品になる」くらいのつもりで、本気で取り組んでほしい。高校生だからという理由で、自分たちの可能性や作品のレベルを決めつけず、思い切って挑戦してもらいたいです。
- ストーリーをつくる上で、一番大切にしていることは何ですか?
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小説を書くことは、自分の才能と向き合い続けるような作業だと思っています。
それでも、1日1行でも2行でも前に進む。僕の中では、高い山を登るようなイメージです。一歩進まないと頂上には近づかない。だから、少しずつでも書き続けることを大切にしています。
- 物語をつくる醍醐味は何ですか?
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僕は、わりと何でも器用にできるタイプなんです。たぶん営業なんかも向いていると思います。何かの魅力を伝えて、人にすすめることは、たぶん得意です(笑)。
そんな僕にとって、一番思い通りにならないのが、自分自身と向き合いながら、文章を一行ずつ書いていくことなんです。本当に、自分が苦手なことをずっと続けているような感覚があります。
でも、だからこそ、それを最後までやり切って、一つの作品を書き上げたときの喜びは、何ものにも代えられません。 僕はもともと、あまり物事に執着するタイプではありません。でも、人生で初めて手に入れた「失いたくないもの」があるとすれば、それは「小説家である」ということなのかもしれません。
早見和真(はやみ・かずまさ)先生 プロフィール
1977年、神奈川県生まれ。2008年『ひゃくはち』で作家デビュー。2015年『イノセント・デイズ』で第68回日本推理作家協会賞、2020年『ザ・ロイヤルファミリー』で第33回山本周五郎賞などを受賞。『店長がバカすぎて』『アルプス席の母』など多数の著書を手がける。絵本作家・かのうかりんさんとの共著に「かなしきデブ猫ちゃん」シリーズがある。
