「親が言わないと何もやりません」 子どもを動かす言葉より、子どもが選んだ結果を支える覚悟を
「親が言わないと何もやらない」と、ついいつも声をかけてしまっていませんか。
「親が言わないと何もやらない」と、ついいつも声をかけてしまっていませんか。その背景には、自分で決める経験の少なさがあるのかもしれません。大切なのは、失敗から学ぶ経験を支えること。主体性を育てる家庭での関わり方に目を向けます。
この記事ではこんなことがわかります!
・つい声をかけ続けてしまう親の不安
・子どもが自分で決める経験の大切さ
・自己決定を育てる家庭での関わり方
「親が言わないと、うちの子は何もやりません」
「うちの子は、言わないとダメなんです」
この相談も、本当によく受けます。
朝起きない。
宿題をしない。
提出物を出さない。
部屋を片づけない。
進路のことも考えない。
見ている親のほうが焦ってしまい、「早くしなさい」「いつやるの?」「ちゃんと考えているの?」と言いたくなる。いや、言わずにはいられなくなる。
その気持ちは、よく分かります。親は子どもの未来を心配しています。失敗してほしくない。困ってほしくない。だから先回りして声をかける。
でも、ここで少し厳しいことを言います。
言うのをやめない限り、一生言い続けないと何もできない子になってしまいます。
親が言えば動く。でも、それは誰の人生なのか
親が言えば、子どもは動くかもしれません。
「勉強しなさい」と言われて机に向かう。
「提出物を出しなさい」と言われてカバンからプリントを出す。
「そろそろ進路を考えなさい」と言われて資料を見る。
その場だけを見れば、親の声かけは効果があるように見えます。
でも、問題はその先です。
- 親が言ったからやる。
- 親が決めたから従う。
- 親が心配するから、とりあえず合わせる。
この状態が続くと、子どもは自分で決める経験を失っていきます。そして、もっと怖いのは、親の言う通りにしてうまくいかなかったときです。

「あのとき、お母さんがそう言ったから」
「お父さんがその学校をすすめたから」
「自分は本当はそうしたくなかった」
そうやって、失敗の責任を親に向けるようになることがあります。親は子どものためを思って言ったのに、結果として親子関係が苦しくなる。子どもは親を恨み、親は「こんなにやってあげたのに」と傷つく。
これは、どちらかが悪いという話ではありません。子どもの人生のハンドルを、親が握り続けてしまった結果なのです。
自己決定を応援するという姿勢
以前にもお話ししましたが、僕は子どもが「自分で選ぶ経験」をとても大切にしています。
ただし、ここで誤解してほしくないのは、「好きにしなさい」と突き放すことではないということです。自己決定を応援するとは、子どもに丸投げすることではありません。
- 情報は渡す。
- 選択肢は一緒に整理する。
- リスクも伝える。
- 親の考えも率直に話す。
そのうえで、最後の選択を子どもに返していく。
これが大切です。
たとえば進路選択で、親としては「こちらの学校のほうが安心だ」と思うことがあるかもしれません。けれど、子どもは別の道を選びたいと言う。親から見れば、遠回りに見える。危なっかしく見える。失敗しそうに見える。
そのときに問われるのは、親の覚悟です。

「あなたが選ぶなら、応援する」
「うまくいかなかったとしても、家族はあなたの味方でいる」
このメッセージを出し続けられるかどうか。自己決定を委ねると、子どもは親が望む結果ではない方を選ぶことがあります。そこに親は不安を感じます。でも、親が安心できる選択だけを子どもに選ばせるなら、それは本当の自己決定ではありません。
失敗しても、帰ってこられる場所がある
子どもに自己決定を委ねると、当然、失敗も起きます。
朝起きると決めたのに起きられない。
課題を出すと言ったのに出せない。
この進路で頑張ると言ったのに、途中で苦しくなる。
そのとき、親は言いたくなります。

「だから言ったでしょ」
でも、この言葉はできるだけ飲み込んでほしいのです。「だから言ったでしょ」は、親の正しさを証明する言葉です。一方で、子どもにとっては、「失敗した自分は責められる」という経験になります。
本当に大事なのは、失敗したあとに何を学ぶかです。

「何がうまくいかなかったんだろうね」
「次に同じことが起きたら、どうする?」
「手伝えることはある?」
こう問いかけることで、失敗は責められる材料ではなく、次の選択の材料になります。子どもは、失敗しないことで自立するのではありません。失敗しても立て直せる経験を通して、自立していきます。
そのためには、「失敗しても帰ってこられる場所」が必要です。家庭は、子どもが正しい選択をしたときだけ受け入れられる場所ではありません。間違えたときも、遠回りしたときも、弱音を吐いたときも、「あなたの味方だよ」と伝えられる場所であってほしいのです。
自己決定は、幸福感にもつながっている
自己決定は、教育のためだけに大切なのではありません。生き方そのものにも関わっています。
神戸大学とRIETIによる日本での実証研究では、幸福感に影響する要因として、健康や人間関係に次いで「自己決定」が大きく、所得や学歴よりも強い影響を持つことが示されています。自分で進路などを決めた人は、その後の努力や結果に対して責任と誇りを持ちやすく、それが幸福感につながると考察されています。
これは、とても大事な示唆だと思います。幸せとは、親が失敗のない道を用意してあげることではありません。
自分で選んだ。
自分で動いた。
うまくいかなかったけれど、自分で考え直した。
もう一度、自分で決めた。
この積み重ねが、「自分の人生を生きている」という感覚につながっていくのだと思います。
だから、日々の小さな選択を奪わないことです。
- 何時に起きるか。
- どの順番で課題をやるか。
- どの服を着るか。
- どの活動に参加するか。
- 誰に相談するか。
- どの道に進むか。
小さな自己決定の積み重ねが、大きな自己決定を支える土台になります。
親の役割は、正解を渡すことではない
親は、子どもより先を生きています。だから、見えてしまうことがあります。
「このままだと困る」
「こっちを選んだ方が楽だ」
「その道は遠回りだ」
「今やっておかないと後悔する」
その直感は、親の経験から来ています。だから、伝えていいのです。
ただし、伝え方が大切です。
「こうしなさい」ではなく、
「僕はこう思う」と伝える。
「それはやめなさい」ではなく、
「こういうリスクはあると思う」と伝える。
「あなたには無理」ではなく、
「やるなら、何が必要か一緒に考えよう」と伝える。
親の意見を押しつけるのではなく、判断材料として渡す。最後の選択を、子どもの手元に戻す。これが、自己決定を支える関わりです。
言わない練習は、親の自立でもある
「親が言わないと何もやりません」という悩みは、実は子どもだけの問題ではありません。親にとっても、「言わない練習」が必要です。言わないで見守るのは、本当に難しいです。子どもが失敗しそうになっているのを見ると、胸がざわざわします。先回りして助けたくなります。口を出したくなります。
でも、その不安を親が全部処理してしまうと、子どもは自分で困る経験を持てません。
困るから考える。
間に合わないから工夫する。
忘れたから次の方法をつくる。
失敗したから誰かに相談する。
この経験を奪わないことです。もちろん、命に関わること、人を深く傷つけること、取り返しのつかない危険があることは、大人が止めなければなりません。そこは見守る場面ではありません。 でも、多くの日常の失敗は、子どもが自分で学ぶための大事な機会です。親が言わなければ、子どもは困るかもしれない。でも、困るからこそ、自分で考え始めることもあるのです。
「あなたの人生は、あなたのものだ」と伝える
子どもに自己決定を委ねるとき、家庭で伝え続けたいメッセージがあります。
「あなたの人生は、あなたのものだよ」
そして同時に、
「どんな選択をしても、家族はあなたの味方だよ」
この二つです。
前者だけだと、子どもは突き放されたように感じるかもしれません。後者だけだと、親への依存が続くかもしれません。だから、両方が必要です。
あなたが決めていい。
でも、一人ぼっちではない。
あなたが選んでいい。
でも、失敗したときに帰る場所はある。
この安心感があるから、子どもは自分で選ぶ勇気を持てます。
子どもを動かすより、子どもが動き出す土台をつくる
「親が言わないと何もやりません」
この状態を変えるために必要なのは、もっと強く言うことではありません。もっと細かく管理することでもありません。むしろ、少しずつ言うのを減らし、選ぶ余白を渡していくことです。

「あなたはどう考えるの?」
「何から始める?」
「いつまでに決める?」
「困ったら、誰に相談する?」
こうした問いは、子どもに考えるスペースを渡します。親が全部決めていたら、子どもは自分で決める人にはなりません。親が全部言っていたら、子どもは自分で気づく人にはなりません。
子どもを動かすことよりも、子どもが自分で動き出す土台をつくること。
それが、家庭にできる大切な支援だと僕は思っています。子どもは、親の思い通りには育ちません。でも、親の思い通りにならなかった選択の先で、自分の人生をつくっていくことがあります。
そのときに必要なのは、「正しい道を選ばせる親」ではなく、「選んだ道を歩く子どもを信じて支える親」です。僕は、子育てのゴールは、親の言う通りに動く子を育てることではなく、自分で決め、自分で引き受け、自分で人生を歩いていける人を育てることだと思っています。
■山本崇雄先生プロフィール■
進徳女子高等学校校長(2027年度より環太平洋大学広島高等学校)・日本パブリックリレーションズ学会前理事長ほか。 都立中高一貫教育校を経て、2019年より複数の学校及び団体・企業でも活動する二刀流(副業)教師。
Apple Distinguished Educator、LEGO® SERIOUS PLAY® メソッドと教材活用トレーニング終了認定ファシリテーター。「教えない授業」と呼ばれる自律型学習者を育てる授業を実践。子どもから社会人まで、自律型人材育成をテーマにした講演会、出前授業、執筆活動を精力的に行っている。
検定教科書『NEW CROWN ENGLISH SERIES』『My Way』(三省堂)の編集委員を務めるほか、著書に『「学びのミライ地図」の描き方』(学陽書房)『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』(日経BP社)、『学校に頼らなければ学力は伸びる』(産業能率大学出版部)『「勉強しなさい!」と言わない子育て 学ぶ力の育て方』(時事通信出版)『「教えない」から学びが育つ』(ウェッジ)ほか、監修書に『21マスで基礎が身につく英語ドリルタテ×ヨコ』シリーズ(アルク)がある。
◼︎note https://note.com/takao_y


